学研教室の卒業生 眞部さん

数学研究者
啓明学院高校(神戸)3年生 (取材時)
筑波大学情報学群情報科学類 進学
眞部光
枠にとらわれず「好き」を究める
じっとしていない、やんちゃな子ども
僕は引っ越しをきっかけに、本山北町教室に入会しました。小学2年生の頃です。それまでは別のところに行っていたのですが、ちょっと合わなくて。引っ越した先のちょうど近くに学研教室があるということで、母にすすめられて入りました。
当時の僕は結構やんちゃで、教室に来てもじっと椅子に座っておらず、逃げ回ったりすることも。藤井先生や他の先生方にもご苦労かけたと思います。
僕は植物や鉱石にすごく興味があって、教室に道端や川で拾った石を持っていき、「先生、見て!」と言って見せていました。僕にとって宝物だったからです。藤井先生は、僕が石を並べると「おもしろいね!」「すごい石だね!」と熱心に話を聞いてくれました。僕はそれがうれしくて一生懸命説明しました。そうして話を聞いてもらうとどこか納得できて、「さあ、勉強するか」という気持ちになりました。
でも、ちょっと間違えると、「あー、嫌だな、帰りたい」と思って、カバンを持ったままトイレに行くこともありました。先生は「カバンはそのまま置いておきなさい」と言うので、部屋にカバンを置いていなくなることも。先生たちが「あれ、光は?」「カバンはあるけど?」と心配して、お寺(教室はお寺の中にあります)の中を探し回ったこともあったそうです。ご住職が、僕が名前を書いたプリントを境内で見つけ、「掃除してたら落ちてたぞー」と持ってきてくださったこともありました。名前はちゃんと書いていたんですね。
そんなことをしていましたが、教室は休みませんでした。自分が興味を持ったことを「もっと見たい」「もっと知りたい」「どうしてそうなるのかをちゃんと理解したい」という思いがとても強かったからです。植物、鉱石、化石、宇宙など、自分が本当に知りたいことを知るために、勉強が必要だということは理解していました。
興味のある分野に対しては、自分から、誰も止められないぐらいの勢いで没頭できました。でも、学研教室で学び始めた頃は、今、プリントの上でやっていることが、自分が知りたいことにどう関係するのか、今後どのように活かしていけるのかが、まったく実感がつかめず、「何のために学んでいるんだろう」というのが、どこか腑に落ちないところがあったのかなと思います。

幾何学を架け橋に学びを広げて
植物や鉱石が大好きだったので、石を持ったまま寝たり、お風呂に石を持って行ったりと、ずっと肌身離さず愛でていました。
あるとき、コンパスと定規を使って正六角形をかく方法を教わったんですね。そのとき「自然の中にも正六角形がある!」と気づいたのです。自然界にはたくさんの幾何学が隠れています。僕が好きな鉱石も、自然のものなのに、観察すると直線の結晶や完璧な正六角形が見つけられます。正六角形のかき方を教わったとき、「今まで、自然の中にある実物を愛でてきたけれど、その美しさを紙の上に落とし込める!」ということにすごく感動しました。「何のために学ぶのか」が腑に落ちた瞬間でした。幾何学を一つの架け橋にして、実物を愛でることから紙の上の学問に移行していきました。
藤井先生は、逃げ回る僕をつかまえたり、叱ったりしながらも、鉱石や植物を愛でる僕を長い目で見守ってくださいました。藤井先生は母にも「光君は、このままでいいんですよ。彼の興味を大切にしましょう。大人の枠にはめてはいけない」とおっしゃっていたそうです。粘り強さが身についたのは、藤井先生のおかげです。自分に合った学校に行きたいと、小学6年生の春に中学受験することを決めました。藤井先生は「がんばって!」と送り出してくれました。中学受験の塾でも良い先生との出会いに恵まれ、啓明学院に合格することができました。
研究者として活躍する現在
僕は、組合せゲーム理論とデータ解析AIの研究に取り組んできました。これまでに16本の論文が国内外の学術誌で掲載、国内外の3つの学会賞を史上最年少で受賞しており、2つの学会で座長を務め、4件の招待講演、30を超える学会発表を行なっています。どんな研究か簡単に説明すると、将棋や囲碁のようなゲームの必勝法や数学的な構造を解析したり、そこから出てきたデータを式に直すAIを作ったりすることです。
今も思い出すのは、化学の本を読んでいたときのことです。たった数十種類の元素から世界ができているんだと知って、とても感動しました。そして、それをさらに細分化していくとどうなるんだろうと考えていったときに、もっと数学を勉強しないと自分が知りたいことを知ることができない、と気づいたのです。そこから数学にのめり込むようになり、中学2年生で数検2級を取りました。そんなとき、数学の博士号を持った学校の先生から「数学の勉強をするのは確かに楽しいけど、研究はもっと楽しいよ」と教えてもらったのです。そんな面白いことならやってみたいと思い、研究に参加するようになりました。最初は「ゲームって数学なの?」という疑問があったのですが、研究を重ねていくうちに、一見数学とは関係ないようなところにも数学が潜んでいるということに魅了され、さらに研究にのめり込んでいきました。この4年間でたくさんの発見があり、とても大きな成果をあげることができたと思います。


学研教室で身につけた基礎力と粘り強さ
啓明学院でめぐり会った恩師からずっと言われているのは、「何かを究めるために必要なのは、特別な才能ではなく、良いテーマ・しっかりした基礎力・のめり込む力だ」ということです。啓明学院では、良いテーマとそれに存分にのめり込める環境に恵まれました。その中で、学研教室に通って身につけた学力の土台が活きているなと感じることが多くありました。自然の実物を愛でるところから抽象的な世界に入っていくとき、それを理解するための下地のようなものです。そういう基礎力をしっかりと身につけることができたのは、学研教室のおかげです。やめずに通い続けてよかったなと思っています。
僕は人と話すのが好きで、一人で家にこもっているのはどちらかというと苦手なんです。藤井先生がいて、友達もいる学研教室は、ちょっと寄っていこうかな、ちょっとおしゃべりしていこうかな、という居場所。今でもそうです。
藤井先生は話しやすくて、たくさんおしゃべりをしました。「こんにちは」と言うやいなや、席にも座らず、石だけでなく、種からマンゴーを育てることや、ひょうたんが可愛いとか、アゲハチョウの幼虫についてなど、そのとき興味を持っていることをひとしきり先生に聞いてもらいました。当然のことながら、そういうマニアックな話をできる友達は少なく、何でもおもしろがって聞いてくれる藤井先生は、僕にとってすごく貴重な存在でした。
学研教室では、英語もがんばりました。英語って、一定期間やらない時期が続いてしまうと、顕著に力が下がってしまいますよね。僕はインターナショナルの幼稚園に通い、小学2年生ぐらいまでもアフタースクールに通っていました。そこから中学に入るまでは、英語は学研教室と公立小学校の授業でふれているだけでしたが、ずっと英語を続けられたのは大きかったと思います。藤井先生のすすめで、小学5年生で英検3級を受検し、合格しました。小学生のうちに英検3級を取れたことは、啓明学院に進学してからのアドバンテージになりました。
数学と他分野を融合しながら学ぶ
僕は筑波大学情報学群情報科学類に進学します。情報学についてしっかり学ぶと同時に、今取り組んでいる研究を大学や大学院に行ってもずっと続けていきたいなと思っています。僕の興味は、数学だけになったわけではなく、今でも植物、生物、鉱石、宇宙にすごく興味がありますし、文学や歴史も結構好きです。数学の研究を情報学とも組み合わせながら、それを他分野にも応用していきたいです。
そのために学ぶべき分野の一つとして、恩師と話しているのが「確率論」です。「確率論」は、高校までで学ぶ、何分のいくつみたいな確率ではなく、もっと抽象的な概念なのですが、これから自分が研究を進める上で、とても興味深い分野だと感じています。実は昔、藤井先生に「僕、将来確率の勉強をしたいんだ」と話したことがあります。分数の計算もできなかった僕が実は「確率論」の専門家でもある恩師とめぐり会うなんて、これもなにかのご縁だと感じています。
高校1年生のとき、広中平祐先生が始めた「数理の翼」という、40年以上の歴史あるセミナーに参加させていただく機会がありました。大学のキャンパスに1週間ぐらい寝泊まりして、著名な大学の先生方からレクチャーを受けたり、みんなで数学の議論をしたりしました。参加していた高校生には、数学オリンピックでメダルを取るような錚々たるメンバーもいて、とても刺激を受けました。自分はそんなに数学ができるわけではないのだけど、自分には研究があったので、それについて発表なども行いました。
私が先生から言われたのは、数学というアカデミアの世界では、単に計算が速いとか、問題に正解するというだけでなく、何か新しいことを見つけていかないとその分野における貢献はゼロになってしまうと言うことです。高校生でも、まだ誰も知らないような発見をすることができるのなら、ただ数学の勉強だけで終わらせてしまうのはもったいないと思ったのです。
数学の研究というと素数とか円周率といったワードに注目が集まりがちですが、それだけではなく、もっと多様なテーマが広がっています。うまくテーマを探せば、中高生でも第一線で研究することが出来ます。そういった未開拓の世界に目を向けていくと、中高生でも色々な発見ができたり、もっとたくさんのチャンスがあるんじゃないかと思います。最近は、後輩たちを育てることも力を入れていて、中高生の研究指導もしています。自分の研究を、国内のみならず海外でも活かして貢献していきたい。自分がやりたいと思ったときにやりたいことをやるためには、基礎力がないと何もできません。小学生のうちから「あとでやっておけばよかったと後悔しなくてすむように、今、やるべきことをやり抜く」ということはすごく大事です。
小学生だから、中学生だから、高校生だから、という枠にとらわれずに、一歩踏み出してみる。そのためにはまず自分の「好き」を究めてみてほしい。「好き」を突き詰めてきた僕からの、後輩たちへのメッセージです。